障害者スポーツボランティアとは

2022.03.31公開
ボランティアで定年後の人生が一変。何事に対しても前向きな気持ちに
小糸 和雄さん

 ボランティア活動にご興味のある方に向けて、先輩ボランティアの方々の活動への想いや実際の活動内容とともに、魅力をお伝えします。

 今回は、東京2020大会を機にボランティアへ興味を持ち、2021年12月に初めて活動に参加したという小糸和雄(こいと かずお)さんに、ボランティア初体験の感想や、ボランティアを経験して変化したことなどを伺いました。

小糸さんがボランティアに参加しようと思ったきっかけを教えてください。

 7年ほど前に定年退職し、ぼんやりと毎日を過ごしていたのですが、定年後に居場所がなくなった男性を描いた映画を見た際にその主人公と自分が重なって、急に空しさを覚えたんです。このままではいけないと焦り出した頃、ちょうど東京2020大会のボランティア募集のニュースを目にして、楽しい経験になりそうな気がしたのですぐに応募しました。

それがボランティアの初体験だったのですか?

 いいえ、残念ながらそうはなりませんでした。ご存じのように東京2020大会は無観客で開催することとなったので、私が行う予定だったシティキャストの活動がなくなってしまったのです。オンラインで研修を受け、ユニフォームも準備して「さあやるぞ!」という気持ちになっていたので、非常に落胆しましたね。

それでもボランティアをやりたいという気持ちは消えなかったのですね。

 はい。「せっかくユニフォームを手にしたのだから、これを着て活動したい!」と思いました。そこで2021年12月に開催された「 チャレスポ!TOKYO」のボランティアに応募したら、運よく当選し、念願かなってボランティアの現場でユニフォームを着て活動することができました。ですから、私のボランティア初体験は「 チャレスポ!TOKYO」でした。

初めてのボランティア経験はいかがでした?

 とても良い経験をさせていただいたと思います。私は車いすテニスのブースの担当になって、ボール拾いなどをお手伝いしました。会場ではプレーヤーと観衆との一体感が素晴らしかったですね。特に印象的だったのが、車いすテニスにチャレンジされたある女性が、ボールを空振りしても、ボールがとんでもない方向に飛んでいっても笑顔で楽しそうにしていたことです。その姿を見ているだけで不思議と幸せな気持ちになれました。もちろん、パラリンピックのメダリストや有名な監督を間近で見ることができたのも嬉しかったです。

その後、東京都障害者スポーツ協会のボランティア講習会にも参加されたそうですね。

 はい。そこでは障害のある方への接し方をはじめ、いろんなことを学びました。目隠しをして歩いてみたり、車いすに乗せてもらったりと障害のある方の感覚を疑似体験できましたし、フロアーバレーなどの障害者スポーツにもチャレンジできてすごく楽しかったです。おかげで、障害のある方に対して以前より自然に接することができるようになった気がします。

障害のある方に対する考えに変化があったのですね。

 そうですね。外を歩く時には困っている方がいないか注意して見るようになりました。講習を受けた後、横断歩道の手前で立ち止まっている視覚障害のある方に声を掛けたことがあったのですが、その時は反応がなかったので「大丈夫ですか? 失礼しますね」と断りを入れてその場を離れたんです。今振り返るともっとやれることがあったのではないかと悔いがありますが、「何もできないから声を掛けない」から、「何もできないかもしれないけど、とりあえず声を掛けよう」という考えになったのは自分の中での大きな変化ですね。

ボランティアを経験したことで、普段の生活にも変化はありましたか?

 気持ちが前向きになりましたね。趣味でテニスをやっているのですが、これまではスクールに通ってコーチの指示を受けて……と受け身の姿勢だったのが、自分から練習仲間を募ってコートを予約して……と能動的に行動するようになりました。最近はこの他にもやりたいことがどんどん出てきまして、例えば学生時代にやっていたギターをもう一度弾いてみたいですし、コロナ禍が収まったら旅行もしたいと思っています。ボランティアの研修時にいただいた冊子に「私は輝く」というフレーズが載っていて、最初はボランティア活動の中だけで輝くことだと捉えていたのですが、今ではボランティア活動を通して「人生全体が輝く」という意味だったのだと実感しています。

ボランティア以外のことも楽しめるようになったのですね。

 そうですね。以前は、「あと何年生きられるんだろう」とか、「今から新しいことを始めても意味がない」と後ろ向きだったのが、最近では「今できることを素直に楽しもう」と考えるようになりました。しかも、自分が楽しむだけでは物足りないので、障害のあるなしに関係なく皆で一緒に楽しめたらいいなと思うようにもなりました。以前、障害のある方とない方が一緒に遊ぶことができる「インクルーシブ遊具」の記事を新聞で読んだのですが、これで遊んだ子どもたちは障害への偏見や差別意識を持つことなく成長していくのではないかと。そういう世の中になってほしいと心から願っています。

その子どもたちは「障害」という感覚自体を持たなくなるかもしれませんね。障害のある方とない方との境目がなくなるというか……。

 そうですね。これからは障害のある方が健常者のスポーツに参加するのもアリだと思います。少なくとも私たちがレクリエーションの延長で行っているスポーツに関しては、ルールをアレンジして一緒に楽しめるようにすればいいのではないかと。最近はそういうことばかり考えています。

小糸さんをここまで変えたボランティアの魅力はどんなところですか?

 純粋に楽しいと思えるところですね。ただ、その楽しさはやってみないとわからないと思いますので、興味があればとりあえず参加してみてほしいです。ちなみに、私自身は人との出会いも楽しめました。ボランティア同士は目的が同じなので仲良くなりやすいですし、年齢もバックグラウンドも異なる、普段なかなか出会うことのない人と話ができたことも楽しい思い出になっています。また、私は街歩きが好きなので、ボランティア参加の帰りについでに散策することも楽しめました。ボランティアは外出するきっかけにもなりますので、以前の私のように家の中で悶々としている方がいらっしゃったらぜひチャレンジしてほしいですね。

〈インタビューを終えて〉

 今後も障害者スポーツのボランティア活動を続けていきたいと明るく語った小糸さん。元々身体を動かすのが好きなので、種目を問わず障害者スポーツ自体にもチャレンジしたいとおっしゃっていました。ちょっとした出来事がきっかけで人生が180度変わる──映画やドラマでよく目にする場面ですが、それを体現した方を目にすることができ、こちらも元気と勇気をいただきました。