障害者スポーツボランティアとは

2023.02.07公開
先回りして声がけを。本当の気持ちに耳を傾ける姿勢が大事です
草野 有子さん

 ボランティア活動にご興味のある方に向けて、障害者スポーツ事業の事例を交えながらボランティア活動の魅力をお伝えします。

 今回お話を伺ったのは、スポーツ推進委員でもありボランティアとしても積極的に活動されている草野有子(くさの ゆうこ)さん。最近は、都内の特別支援学校で開催されているスポーツ教室を中心にボランティア活動を行っているという草野さんに、約5年のボランティア経験を通して身につけたことや学んだことを話していただきました。

ボランティア活動を始めたきっかけを教えてください。

 ボランティア活動を始める前から足立区のスポーツ推進委員をやらせていただいていたのですが、その活動の一環で初級パラスポーツ指導員の資格を取得し、その知識を生かしてみようと思ったのがきっかけでした。資格取得のタイミングで障害者スポーツイベントの年間スケジュールをいただいたので、タイミングの合うイベントを探しては参加していました。

ボランティアを始めたときのご自身の様子はいかがでした?

 とにかく戸惑うことが多かったです。例えば、車いすテニスでボールパーソン(ボールを拾ったり、新しいボールを球審や選手に渡したりする人)をさせていただいたときは、プレーヤーの方にどこまで近づいていいのか分からず試行錯誤しました。どのように声がけをして良いかが分からずに緊張したことも覚えています。とにかく分からないことだらけでしたが、ボランティアの先輩たちのやり方を見ながら自分なりのやり方を見出していきました。

これまでのボランティア活動で印象に残っているエピソードはありますか?

 あるコロナ禍の前のパラバドミントンの大会での出来事ですね。脚に障害のある親子の方がダブルスの選手として参加されていたのですが、待機場所でお母様がすごく寒そうにされていました。脚が不自由なので、寒くても上着を取りに行けないんですね。周りの人にお願いするのも気が引けたのか、じっと寒さに耐えていらっしゃいました。私は偶然その様子に気づき、自分のジャケットをお貸ししました。講習会では障害のある人にとって体温調整はとても難しいことだというのを習っていたのですが、こういうことだったのだと合点がいきましたね。それからは、「寒くないですか?」「暑くないですか?」といった感じで、先回りしてお声がけするようにしています。

現場に出て初めて知ることも多いのですね。

 これまで色々な大会やイベントに参加させていただきましたが、障害者スポーツに関しては未だに分からないことが多いです。特に、お子さんが相手だとケースバイケースで対応が異なってくるので、発見の連続ですね。例えば、あるスポーツイベントで表情が沈んでいる車いすの女の子を見かけたのですが、理由を聞いたら、一緒に参加した学校の友達と離れて一人で車いす競技をするのが嫌だということでした。彼女の友達は障害のない人たちだったのですが、結局、その車いすの女の子が友達に合わせるかたちで合流しました。私はてっきり車いすに特化した競技のほうが楽しめると思っていたのですが、実際は違っていましたね。そういった経験を通して分かったのは、何事もこちらで決めつけてはいけないということ。何を望んでいるのかは、本人に直接聞くのが一番だということを学びました。特に、お子さんの場合は意思表示が苦手なので、こちらから聞く姿勢を示すことが大事ですね。

先回りして声がけすることが大事なのですね。

 そうですね。自分から積極的に声がけするようにしていたら、同伴の保護者の方から逆に声をかけてもらえるようにもなりました。中には、「以前、別のイベントでもご一緒しましたね」と、顔を覚えていてくださった方もいましたね。保護者の方も初めてのイベントに参加するときは不安なのでしょう。一人でも知っている顔がいると安心するのだと思います。

草野さんがボランティア活動を続けるモチベーションはどこにありますか?

 やはり、参加者の笑顔を見ると自分の事のように嬉しくなるところです。難しそうに見える競技でも、工夫を重ねることで何とかできるようになる。その時の達成感も格別です。あとは、講習会などの座学で得た知識が現場での出来事と重なる瞬間があるのですが、それを経験するのも楽しいです。やはり、現場に出て実際に体験することが大切だなと思います。

ボランティアに興味があっても一歩踏み出せない人にはどのように声をかけたいですか?

 一人だと参加しづらい人は、まずは一緒に行ける仲間を探してみるといいと思います。最初は分からないことも多いと思いますが、ボランティアの現場には初心者を優しく受け入れる雰囲気がありますし、私自身はその中で先輩たちの背中を見ながら声がけの方法とか見守りの方法とか、いろんなスキルを身につけることができました。そして何より、私自身がボランティアに参加することで元気をもらえていますので、皆さんにもぜひ同じような体験をしていただきたいです。

【インタビューを終えて】

 周りの人からは止まると生きられない「鮪」のようだと言われるほど、ボランティア活動を精力的に行っているという草野さん。そんな草野さんにとって、コロナ禍でイベントの数が激減した2020~21年はかなり忍耐が必要だったそうですが、東京2020オリンピック・パラリンピックの双方にフィールドキャストとして参加したことでモチベーションを維持できたと語っていました。徐々に、障害者スポーツ関連のイベントが増えてくる今後は、令和3年度に資格取得した中級パラスポーツ指導員の知識も存分に生かしていきたいそうで、その意欲的な姿に私達もパワーをいただきました。