障害者スポーツボランティアとは

2023.03.24公開
障害のある人たちの世界を広げるお手伝いをしたい
吉越 奏詞さん

 ボランティア活動にご興味のある方に向けて、障害者スポーツ事業の事例を交えながらボランティア活動の魅力をお伝えします。

 今回お話を伺ったのは、4年ほど前にボランティア活動を始めたという吉越奏詞(よしごえ そうし)さんです。パラ馬術の選手として、東京2020パラリンピック競技大会をはじめ国際的な大会で活躍されている吉越さんに、競技生活と並行してボランティア活動を始めたきっかけやボランティア活動を通じて感じたことなどをお聞きしました。

パラ馬術選手として競技生活を送るかたわら、ボランティア活動を始めたきっかけを教えてください。

 私は先天的に右手と両脚が不自由で幼少期からボランティアの方々のサポートを受けていましたので、自分を支えてくださったみなさんにいつかは恩返しをしたいと思っていました。東京2020大会の開催が決まってからは、その思いがより一層強くなりましたね。そこで、自分も皆さんと同じようにサポートする立場になってみようと、ボランティアへの参加を決意しました。

初めてボランティアに参加されたのはいつですか?

 2018年10月です。ちょうど高校生活の終わりに差し掛かっていた頃で、障害のある人を対象とした乗馬会に参加し、馬への乗降をサポートしたり、馬の乗りこなし方をアドバイスしたりしました。そのイベント自体は乗馬経験のない人たちに馬に親しんでもらうのが目的だったので、とにかく楽しんで活動することを心掛けました。

サポートする側に立ったことで何か発見はありましたか?

 普段から馬に乗っている人と、これから乗り方を教わる人の視点は全く違うことが分かりました。例えば、手綱の持ち方が違っていることを伝えるにしても、言葉だけでは全然だめで、実際に手を動かして見せないと伝わりませんでした。そんな細かいことに気づかされる場面が結構ありましたね。

自分では当たり前のことでも、相手にはそうでないことがあるのですね。

 そうですね。パラ馬術というスポーツは、乗る人に楽しいと思ってもらうことが何より大切なのです。初めて馬に乗る時には怖がってしまう人が多いので、まずは私たちボランティアが積極的にアプローチして、気持ちをほぐしていかないといけないと思いました。そのためにも、相手の気持ちになって教えることが重要だと思います。

吉越さんがボランティア活動でやりがいを感じるのはどのような時ですか?

 障害のある人が、馬と関わることで「楽しい」「うれしい」という気持ちになってもらえるとすごくやりがいを感じます。日本ではパラ馬術という競技自体がすごくマイナーで、選手の数も少ないので、ボランティア活動を通してパラ馬術に興味を持つ人を少しでも増やしたいという思いもあります。

今後もパラ馬術に関連したボランティア活動を続けていく予定ですか?

 そうですね。パラ馬術関連の活動を続け、障害のある子どもたちにスポーツをすることの楽しさや喜びを伝えていきたいですね。自力で歩くことができなかった自分が子どもの頃にパラ馬術と出会い、馬の力を借りて歩くことができるようになった時の喜びは今も忘れられません。今、大学で教育実習をしていて、近い将来は教員免許を取る予定ですので、その経験も生かしていきたいと思っています。

吉越さんのボランティア活動をきっかけに、スポーツに目覚める人がいるかもしれないですね。

 入口はパラ馬術だったとしても、障害のある人たちにはそれ以外の種目にもチャレンジしてほしいですね。私の場合は今はパラ馬術を通じてですが、今後は障害のある人たちの世界を広げるお手伝いができたらと思っています。

ボランティア活動を行ううえで、TOKYO障スポ&サポートをご覧になったことはありますか?

 はい。これまでいくつかの募集イベントを見て、2022年10月に開催された「チャレスポ!TOKYO」に参加させていただきました。そこではパラ馬術以外の障害者スポーツに触れることができてすごく楽しかったです。自分と同じようにボランティアとして参加された方々と話す機会もあって、人それぞれ色々な思いがあって参加されていることが分かり、とても勉強になりました。「人の力になりたい」とおっしゃっていた方が多いのが印象的で、自分ももっと頑張らなければという気持ちになりました。

ボランティアの方々とは、緊張せずにお話しすることはできましたか?

 正直に言うと、初対面の方と話す時はとても緊張します。それでも何とか話をしようと試みるわけですが、その時は選手ではなくボランティアの目線になることが大事だと思っています。というのも、自分の中に選手モードになるスイッチがあって、それが入ると見方や考え方がまったく違ってしまうからです。ですから、ボランティア活動をする際は、ボランティア目線を意識するようにしています。

障害のある人の中には、ボランティア活動に参加することをためらっている人もいるのではないかと思います。そのような人に、どのような声をかけますか?

 まず選手の立場から言わせていただくと、どんな小さな力でもサポートしていただくのはとても助かります。ですから、自分は力不足だなどと思わず積極的に参加してほしいと思います。またボランティアとしての立場で言わせていただくと、「ありがとう」といろんな方に言ってもらえたのが大きな励みになりました。障害のある人たちにもぜひこの喜びを味わっていただきたいですね。

【インタビューを終えて】

 吉越さんは、パラ馬術を「馬の気持ちに寄り添う競技」だとおっしゃっていましたが、そのように他者を思いやる気持ちを培ってきたからこそ、ボランティア活動に対しても積極的に取り組むことができるのだと感じました。インタビュー中「サポートしたくなる選手になるように頑張る」とおっしゃっていましたが、ボランティアとして支える側の気持ちを知っているからこそ、そのような謙虚な姿勢で競技に臨むことができるのでしょう。ボランティアでも競技でも「思いやり」「感謝」をベースにしている吉越さんのお話を伺っていると、とても温かい気持ちになりました。