障害者スポーツボランティアとは

2023.03.31公開
「時間を共有できている」という感覚に心が満たされています
澁谷 和利さん

 ボランティア活動にご興味のある方に向けて、障害者スポーツ事業の事例を交えながらボランティア活動の魅力をお伝えします。

 今回お話を伺ったのは、スポーツ関係の会社に勤務されるかたわら、障害者スポーツのボランティアにも積極的に参加されている澁谷 和利(しぶや かずとし)さんです。中級パラスポーツ指導員の資格を保持し、審判や補助員としても活動されている澁谷さんに、障害者スポーツに深く関わるようになったきっかけや、ボランティア活動でのやりがいなどをお聞きしました。

澁谷さんがボランティア活動に携わるようになったきっかけを教えてください。

 本格的に携わるようになったのは高校を卒業した1995年で、ちょうど阪神淡路大震災が起こり、ボランティアに注目が集まっていた頃でした。私の地元でも若い世代を中心にボランティアを活性化していこうという動きがあり、当時の町会長からの依頼で私が若者中心のボランティア組織を作り、リーダーとして先導していくことになりました。それからは、同級生や後輩たちと一緒に盆踊り大会やバスハイク、もちつき大会といった地域イベントでボランティア活動を行いました。

どうして澁谷さんがリーダーに指名されたのですか?

 私の母が町会の役員をしていた関係で私自身も小さい頃から地域活動に参加しており、どう動けばいいか理解していたからだと思います。あと、私がボランティア活動に前向きに取り組む人間だということも分かっていたのでしょう。実際、大学生活やアルバイトと掛け持ちの活動でしたが、心から楽しんでやっていましたね。ちなみに、当時のアルバイトは地元小学校の特別支援学級の補助員でした。やっぱり人と深く関わったり、人の役に立ったりすることが好きなのでしょうね。

障害のある人と関わるようになったのは、特別支援学級でのアルバイトがきっかけですか?

 学業のかたわら、特別支援学級で知的障害のある生徒たちと一緒に勉強していました。そこで強く感じたのは、私たち障害のない人と障害のある人との間には「違い」がないということでした。そう感じた理由は、知的障害のある子どもたちは考えをありのまま発言しますが、その感じ方が私たちとまったく同じだったからです。好き・嫌い、楽しい・つまらない……結局、私たち障害のない人は本音をストレートに表現しないだけで、感じることは障害のある人と一緒だと思います。

そこから障害者スポーツに関わるようになったいきさつを教えてください。

 今の会社に入り、業務の一環で障害のある人向けの体操教室や水泳教室などを担当したのですが、そこが障害者スポーツへの入り口でした。最初は特別支援学級での経験があったので問題なくやれると思っていたのですが、保護者の皆さんや教室の運営スタッフの方々と話していると自分の障害に関する知識の浅さに気づかされ、悔しい思いをしました。そこでパラスポーツ指導員の資格を取ろうと決意し、資格取得のために受けた講習を通して見識を深めることができました。おかげで、今では何とか同じ目線で話ができるようになりました。

お仕事とは別に東京都障害者スポーツ協会のボランティアや講習会にも参加されているそうですが、休日を使って活動されているのですか?

 周りからは大変そうに見られるのですが、自分の中では同じ障害者スポーツに関する活動でも仕事とボランティアとでは意識が違うので、オン・オフの切り替えはできていると思っています。また、ボランティアや講習会を通して仕事とは異なる人脈や知識を広げることができるので、そういう部分でも楽しめています。

ボランティアのどのようなところにやりがいを感じますか?

 他の人と「時間を共有できている」という感覚にやりがいを感じます。もちろん、ひとりよがりの満足にならないように気をつけています。たとえば、障害のある人ご本人の目を見て話すように心がけています。そうすると本当に望んでいることを感じ取ることができるので、サポートにミスマッチが生じにくくなります。

相手の気持ちを読み取る際に意識していることはありますか?

 私の場合、読み取りは経験則に基づくことが多いです。そのため、相手の気持ちを読み誤って反省することがあります。ただ、そういうことも経験の一つであり、次のステップに向けての下地になるとポジティブに捉えています。いずれにしても自分は完全に「サポート側」という意識があるので、自分の活動や行動に対して、感謝されたら素直に嬉しいです。

これまでのボランティア活動で、嬉しい気持ちになった印象的な出来事はありますか?

 たくさんあります。最近の活動で印象的だったのが、東京2020パラリンピック競技大会でフィールドキャストをさせてもらった時です。私はボッチャ競技会場のサブアリーナでチームリーダーを務めたのですが、いろんな国のコーチからピンバッジをいただきました。ピンバッジは選手団から頑張っていると思ったボランティアに対して贈られるもので、中には、「笑顔が素敵だったから」という理由で私にピンバッジを下さった選手団もあり、自分の頑張りが認められた気がしてすごく嬉しかったです。

これからボランティアに参加したいと考えている方々にメッセージをお願いします。

 私自身もそうだったのですが、やる前は恐怖や不安があると思います。でもネガティブな感情にとらわれていたら結局何もできないまま終わってしまうので、ボランティアに興味があれば募集団体に電話やメールなどで連絡して欲しいと思います。また、TOKYO障スポ&サポートのようなマッチングサイトを活用すれば、ハードルは幾分か下げられるのではないでしょうか。そのちょっとした行動が、次の大きなステップにつながると思います。これから活動を始める皆さんと、同じボランティア仲間としてお会いできるのを楽しみにしております。

【インタビューを終えて】

 障害のある人と長く深く関わってきた澁谷さんだけに、インタビューではご紹介しきれないほどたくさんの興味深いエピソードを話してくださいました。中でも印象深かったのが、特別支援学級の先生との出会いで、その先生は重度の知的障害のある生徒が窓に油性ペンで絵を描いた時、叱るのではなく笑顔で抱きしめながら「きれいに描けたね」とほめたそうです。その姿が澁谷さんの障害のある人への接し方の基本になっていて、ご自身にとっては「一生の宝物になった」とまでおっしゃっていました。障害のある人との交流やボランティア活動の様子を終始満面の笑顔で語っていただきましたが、澁谷さんの明るく前向きなお人柄は、このような素敵な出会いの積み重ねによるものだろうと思いました。