障害者スポーツボランティアとは

2024.03.11公開
「役に立ちたい」から「学ばせてもらっている」へと気持ちが変化。ボランティアで人生が豊かに
田口夏男さん

 ボランティア活動にご興味のある方に向けて、実際の活動の事例を交えながらボランティア活動の魅力をお伝えします。

 今回お話を伺ったのは、ご自身でもスポーツを楽しむ傍ら、ボランティアやパラスポーツ指導員として様々なイベントや教室、講習会に参加している田口夏男(たぐち なつお)さんです。定年後も精力的に活動されている田口さんに、障害者スポーツボランティアの魅力や、ボランティアを続けるモチベーションについてお聞きしました。

ボランティアを始めたきっかけを教えてください。

 定年退職し、自由な時間ができたのがきっかけです。元々、墨田区の障害者施設で介護の仕事をしていたのですが、定年後もボランティアとして障害のある人と関わりたいと思い、2017年に初めてボランティアに応募しました。そのイベントは障害のある人を対象にしたスポーツ大会だったのですが、参加者の楽しそうな姿がとても印象的でした。

定年後も障害のある人たちと関わりたいと思ったのはどのような理由からですか?

 私自身が障害のある人たちから元気をいただけるからです。介護の仕事は体力的には大変だったのですが、利用者さんの笑顔がとても素敵で、ピュアな心に私自身も支えてもらっているという感覚がありました。もちろん、介護職で培ったスキルを違う土俵で生かしたいという思いもありましたし、これまでお世話になったたくさんの人たちに恩返ししたいという気持ちもありました。みなさんが私を支えてくれたように、私も誰かをサポートすることで恩返しになるのではないかと考えたんです。

かなり精力的にボランティア活動をなさっていますが、何が原動力になっていますか?

 ひとことで言うと好奇心でしょう。ボランティアをやればやるほど自分に足りないスキルや経験が明確になるので、講習会などでそれを身につけ、次のボランティアの現場で生かしてみたくなるんです。色々なボランティアをやって、その合間に講習会などに通っていると毎日の予定がほぼ埋まってしまいます。今は健常者向けスポーツの活動にもたくさん参加していますが、今後は障害者スポーツに絞っていこうと考えています。

障害者スポーツのボランティアでは、どのようなことにやりがいを感じますか?

 精神的な強さや突出した身体能力など、障害のある人たちから色々なことを学べることがやりがいになっています。不思議なもので、介護の仕事をしている時は気づかなかったのに、スポーツを介すると色々なことが新たに見えてきて、ボランティアを始める前の「役に立ちたい」という思いは「学ばせてもらっている」という思いに変わりました。「今日はどんな素敵な人に出会えるんだろう?」というワクワク感が常にあります。

障害のある人との触れ合いの中で学びを感じたエピソードはありますか?

 水泳教室の指導員として、精神障害を持つ50代の方を指導した時の出来事ですが、その方は水に入ることも顔を水につけることも初めてだったのに、教室へ来るたびに課題をクリアし、上達していきました。その結果、練習の成果を発表する5回目の教室では、見事に25mプールをクロールで泳ぎ切りました。どうやら教室がない日にも熱心に練習を積んでいたそうで、その実直さと身体能力の高さに感動し、思わず涙してしまいました。

ボランティアを一緒に行う人たちから刺激を受けることはありますか?

 はい、あります。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会のボランティア同士でグループを作り、Facebookで連絡を取り合っているのですが、その中にはボランティアに関する豊富な経験とスキルを持つ方がたくさんいらっしゃいます。グループで参加するボランティア活動や飲み会には極力参加し、色々な話を聞くようにしていて、とても刺激を受けています。このようなボランティア仲間との交流も、活動を続けるモチベーションになっています。

今後、ボランティアでやってみたいことはありますか?

 色々ありますが、まずは中級パラスポーツ指導員の資格を取得して、活動の幅を広げたいと思っています。あとは、東京2025デフリンピックにボランティアとして参加したいので、手話の勉強もしています。ボランティア仲間には、パリ2024オリンピック・パラリンピック競技大会を目指して準備を進めている人もいますが、私はそこまでの遠出は難しいので、日帰りできる活動を選ぶようにしています。

ボランティアの情報をどのように集めていますか?

 TOKYO 障スポ&サポートをはじめとするボランティアの募集サイトや、様々なスポーツ協会及び自治体のメールマガジン等に登録して、ボランティア情報をメールで受け取るようにしています。年度初めに年間計画が出ていればそれを基にスケジュールを組み、その後に追加で出てきた案件は空いている日程に振り分けています。そういうことをしていると、何もしない日はほとんどありません。ただ、1~2時間だけ参加する案件もあるので、体力的にはそれほどきつくないです。のんびりしたいという気持ちがないわけではないのですが、結局、ボランティアや障害者スポーツを楽しみたいという気持ちが勝ってしまいます。

定年後にボランティアに参加したいと考えている人は多いと思いますが、そういう方々にメッセージをお願いします。

 定年を迎えられる方々は知識や経験が豊富だと思いますので、ボランティアはそれらを生かすチャンスだと思います。また、ボランティアに参加することで、幅広い職種や年齢の人たちとつながることができます。それは、新しい知識や経験を得られる機会が増えることでもあり、きっと人生を豊かにしてくれるでしょう。ボランティア活動を始めるに当たって特別な技能などは必要ありません。一歩踏み出す勇気が少しだけあれば十分です。現場にはサポートしてくださる人がたくさんいますので、安心して参加していただきたいと思います。私は現在67歳ですが、ボランティア活動のおかげで、人生の中で一番幸せな時間を過ごしています。

障害者スポーツのボランティアでは、障害のある人とのコミュニケーションに不安を抱いている人も多いと思いますが、そこは大丈夫でしょうか?

 確かに最初は戸惑うこともあると思いますが、結局は慣れの問題ではないでしょうか。障害者スポーツに限らず、何事も新しい体験をする時には不安や戸惑いを感じますよね?障害者スポーツのボランティアもまったく一緒で、回を重ねていけば自然と解消されるはずです。どうしても不安がぬぐえないなら、まずは見学だけでもいいと思います。無理のない範囲で、自分との相性を確かめてほしいと思います。

【インタビューを終えて】

 田口さんは、ボランティアを始めてからほとんど病気をしていないそうで、適度な運動と障害のある人たちから受け取る元気、そしてペットのワンちゃんによる癒しの相乗効果ではないかと語ってくださいました。引き続き障害者スポーツボランティアに取り組んでいくことに加え、今後は障害者スポーツの団体運営にも携わってみたいそうです。今回の取材で田口さんのはつらつとした姿を拝見したことで、ボランティア活動がもたらすポジティブな効果を改めて感じました。