障害者スポーツボランティアとは

2026.03.19公開
完璧にやれなくても大丈夫。できないことがあっても、誰かの希望になれる
佐伯 菜々美さん

 障害者スポーツボランティアにご興味のある方に向けて、活動事例を交えながらその魅力をお伝えします。

 今回お話を伺ったのは、脳性麻痺のあるパラ陸上競技選手で、T35クラスの100m、400m、走幅跳で日本記録を持つ佐伯 菜々美(さえき ななみ)さんです。最近はボランティアとしても様々なイベントに参加されている佐伯さんに、陸上競技やボランティアを始めたきっかけ、そして活動を通じて感じた変化について伺いました。

パラ陸上競技の選手として素晴らしい記録を残されていますが、どのようなきっかけで競技を始められたのですか?

 大学に入学したばかりの頃、運動部の先輩方がスポーツと勉学をしっかり両立されている姿を見て、「カッコいい」と思ったのがきっかけでした。ただ、私自身は大学に入るまでスポーツに本格的に取り組んだことがなかったので、何を始めればいいのか分からない状態でした。そんな中、大学で「東京都パラスポーツ次世代選手発掘プログラム(※1)」を紹介され、自分に合う競技が見つかるのではないかと思い、参加してみることにしました。様々な競技を体験する中で、無理なく継続できそうだと感じた陸上競技に挑戦することを決めました。障害があることは多少気になりましたが、それでも「やってみたい」という気持ちが強く、大学の陸上部の監督のもとに行き、入部したいと直接お願いしました。

※1:「東京都パラスポーツ次世代選手発掘プログラム」の詳細はこちら

大学の陸上部では、障害のない学生と一緒に練習されているのですか?

 はい、障害のない学生と一緒に練習しています。一応、周囲には障害があることを伝えていますが、それでも動きが止まったり、遅かったりすると「怠けている」と誤解されることがあります。そういった場面に遭遇すると、障害に関する知識がまだ十分に社会に浸透していないのだと感じ、悔しい思いをすることもあります。ただ、その悔しさは競技会で一気に発散しています。競技会では、同程度の障害のある選手同士での勝負になるため、「絶対に負けない!」と競争心に火が付きます。

佐伯さん自身は、障害のない学生に交じって練習することに抵抗はなかったのですか?

 そうですね。おそらく私自身、自分が障害者だという意識が薄いのだと思います。小学校からずっと通常学級で学んできましたし、障害があるというよりも「少し病弱なくらい」という感覚で捉えていました。母は、私に障害があることをそれとなく伝えていたそうなのですが、あまり気に留めていませんでした(笑)。ありがたいことに、陸上部の監督からも「障害は個性だよ」と言っていただき、障害のない学生たちに交じって練習することに引け目を感じることはありませんでした。

最近は様々なイベントでボランティアをされていますが、始めたきっかけを教えてください。

 日頃お世話になっている方から、関東パラ陸上競技協会が主催する練習会のボランティアに誘われたことがきっかけです。正直に言うと、最初は積極的にボランティアをやりたいという気持ちがあったわけではなく、お誘いいただいた方と一緒なら楽しめそうだなと思い参加しました。現場ではパラスポーツ指導員の方と一緒に子どもたちの前で準備体操をしたり、目印になるようゴール地点に立ったりとサポート的な役割を務めました。その練習会には、私と同様に障害のある方がボランティアとして参加されていて、活動の合間にいろんな話ができたことがとても楽しかったです。

ボランティアを経験する前と後で、気持ちに変化はありましたか?

 まず孤立感がなくなったのが大きな変化でした。ボランティアを経験する前は、障害のある自分と周囲の人たちを比べて「なぜ自分だけ苦労しなければいけないんだろう」とふさぎ込むことがありました。しかし、ボランティアをとおして、似たような境遇の方々と気持ちを共有することができ、とても気が楽になりました。目上の方も多く、生活するうえでの工夫や就職活動における障害の伝え方など、スポーツだけでなく人生全般に関する有意義な情報も得ることができました。とにかく、どんな障害があろうと前向きな方ばかりなので、しっかり見習っていきたいと思っています。

ボランティア経験をとおして学んだことはありますか?

 目上の方と話す機会に恵まれたことで、言葉遣いをはじめ、社会人としての作法を学ぶことができたと感じています。また、パラ陸上競技をはじめとする多くの障害者スポーツがボランティアの方々に支えられて成り立っていることを実感しました。

 さらに、コミュニケーションの取り方についても多くの学びがありました。特に小さなお子さんが参加するイベントで感じたことですが、相手の発する言葉をそのまま受け取るのではなく、状況をしっかり見極めることが大切だと思いました。たとえば、「まだやれるよ」と体を動かしたがるお子さんがいても、休憩を取ったほうが良いと判断した場合には、きちんと休んでもらうように声をかける必要があります。言葉の表面だけで判断するのではなく、状況を冷静に把握して接していくことの大切さを学びました。

ボランティアを始めたことで、競技生活にも良い影響はありましたか?

 陸上部の仲間とボランティアに参加したことで、より仲良くなることができました。私が率先して誘っているのですが、初めて参加する人でも楽しんでいる様子を見ると、「やってみたい」と思っている人は意外と多いのかもしれません。

 それは障害のある人も同じで、「きっかけさえあれば……」と考えている人は多いと思うので、興味があるなら遠慮せずに飛び込んでほしいです。私自身も障害があるがゆえに「お役に立てないかも」という不安はありましたが、何事もやってみなければ分からないし、「完璧でなくてもいい」という気持ちで、まずは挑戦することにしました。

佐伯さんと同世代の人や障害のある人の中には、ボランティアへの第一歩を踏み出せない人も多いと思います。そういった方々へのメッセージをお願いします。

 私自身、障害の影響でできないこともたくさんありますが、そうした部分は他のボランティアの方が補ってくださいます。また、障害のある人や障害のあるお子さんを持つ親御さんの中には、完璧ではない私が活動している姿を見て、「自分にもできるかも」「うちの子も一人で参加させられるかも」と感じてくださる方もいるようです。そう考えると、私も何かしら役には立っているのかなと感じています。

 いずれにせよ、ボランティア未経験の方にお伝えしたいのは、「役に立たなきゃいけない」と気負う必要はないということです。できないことは周囲の力を借りればいいだけのこと。できないことよりも、できることに目を向けてほしいと思います。もし、どうしても自分に合わないと感じたら、別のボランティアに参加してみてください。そうやっているうちに、自分の力を発揮できる場がきっと見つかると思います。

【インタビューを終えて】

 陸上部の監督に入部を直訴するなど、行動力の高さに驚かされる佐伯さんですが、実際の話しぶりは淡々としていて、自然体な姿がとても印象的でした。「何事もやってみなければ分からない」「完璧にやれなくてもいい」というインタビュー中の言葉からも伝わるように、物事を過度に構えず受け止める姿勢が、目の前のハードルを軽やかに超えていく力につながっているのかもしれませんね。

 そんな佐伯さんは、2026年4月から社会人としての生活が始まるため、競技生活はいったんお休みするものの、ボランティアはマイペースに続けていきたいと語っていました。その気負いのない姿勢が、多くの障害のある人にとって、ボランティアや新たな一歩を踏み出すきっかけとなるよう願っています。